事件概要
2018年3月2日、東京都目黒区のマンションで、当時5歳のY.F被害者(当時5歳の被害児童)が衰弱して亡くなっているのが発見された。継父のY.F被告(当時33歳)による日常的な暴行と、実母のY.F被告(当時25歳)による保護懈怠(=必要な保護を怠ったこと)で、被害児童を死亡させたとして、両名が起訴された。
捜査の結果、被害児童は事件の数か月前から十分な食事を与えられず、体重は5歳児としては極めて軽い約12.2キログラムまで衰弱していたことが判明したと報道された。また、自宅で被害児童が残したノートには「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」「もうぜったいぜったいやらないからね」という言葉が書かれており、その内容が公開されたことで、全国民に大きな衝撃を与えた。
家庭は香川県から東京都へ転居していたが、転居の前後で児童相談所間の情報の引き継ぎが不十分だったことも指摘され、児童虐待防止法・児童相談所体制の抜本的な見直しへとつながった。
判決
夫妻はそれぞれ別の公判で裁かれた。
(1) 母Y.F被告:
・判決日:2019年9月17日
・裁判所:東京地方裁判所(裁判員裁判) / 裁判長:守下実
・判決:懲役8年(求刑:懲役11年)
・罪名:保護責任者遺棄致死罪、傷害幇助罪
(2) 継父Y.F被告:
・判決日:2019年10月15日
・裁判所:東京地方裁判所(裁判員裁判) / 裁判長:守下実
・判決:懲役13年(求刑:懲役18年)
・罪名:傷害致死罪、保護責任者遺棄致死罪等
判決理由では、継父について「常軌を逸した虐待を続け、5歳の被害児童を死亡に追い込んだ責任は重大」と指摘されたと報道された。母親については「夫の暴力への恐怖から十分な保護を行えなかった事情は理解できるが、自分の子を守る母親としての責任は果たすべきだった」と認定されたという。
検察側の主張
「継父による暴行は常軌を逸しており、被害児童に多大な肉体的・精神的苦痛を与えた末、衰弱死に至らしめた。母親も継父の虐待を認識しながら十分な保護を行わなかった責任は重い。両者ともに長期実刑が相当」と主張したとされる。
弁護側の主張
母親側:「継父からのDVと支配的関係があり、保護行為を行う自由意志が著しく制約されていた。被害児童の死亡という結果は痛恨の極みだが、被告自身も被害者という側面がある」と主張したと報道された。
継父側:「暴行の意図はあったが、死亡結果については予見可能性に乏しかった。傷害致死罪の成立は争わないが、量刑は寛大に願いたい」と主張したという。
裁判員の声
判決後の記者会見では、裁判員から「ノートの言葉が頭から離れなかった」「子どもの命をどう守るか、社会全体で考える必要がある」といった発言があったと報じられた。本件の裁判員裁判は、社会に強い問題提起を行ったとされる。
被害者の声
被害者はY.F被害者(当時5歳)である。本件で残された「ゆるしてください」のノートは、児童虐待の悲惨さを象徴する文書として、全国に強い反響を呼んだ。本件を契機に、2019年6月、児童虐待防止法と児童福祉法の改正が成立し、親権者による体罰禁止が明文化された。
量刑の相場
傷害致死罪(刑法第205条)の法定刑は、「3年以上の有期懲役」。
保護責任者遺棄致死罪(刑法第219条)の法定刑も、「3年以上の有期懲役」(傷害致死罪に準じる)。
量刑を決める際に見るのは、被害児童の年齢、虐待期間の長さ、暴行や遺棄の悪質さ、死亡結果の予見可能性、被告の立場(実親・継親・監護者)、反省の有無、DV等の支配関係の有無(共犯者の場合)などとされる。
児童虐待死事件の量刑相場としては、主犯(暴行行為者)に懲役10年から18年、共犯(保護懈怠)に懲役5年から10年の幅で判決が分布する傾向があるという。
同種事件の判決
2019年、千葉県野田市のM.K被害者さん事件では、父親に対し傷害致死罪等で懲役16年の判決が出された(2020年3月、千葉地裁)。
2018年、大阪府摂津市の3歳児虐待死事件では、実母とその交際相手に懲役7年〜10年の判決例があるとされる。
諸外国の事例
・アメリカ:児童虐待死(child abuse murder)は州により異なるが、多くの州で一級殺人(first-degree murder)として死刑または終身刑が選択肢になる。
・イギリス:児童に対する『causing or allowing the death of a child』罪は最高14年の禁錮(Domestic Violence, Crime and Victims Act 2004)。実行犯がmurderとして起訴される場合、終身刑。
・ドイツ:刑法第225条「被保護者虐待罪」は最高10年の自由刑、死亡結果があれば過失致死等と併合される。
・フランス:刑法第222-7条「暴行による死亡を招いた行為」は最高15年、未成年に対する場合は20年(加重)。
・北欧:児童虐待事件では、施設保護と心理治療を重視する一方、加害者には長期実刑が言い渡される傾向があるとされる。
日本の継父・懲役13年は、欧米諸国の児童虐待死事件と比べてどう評価されるか。被害児童の年齢、虐待期間、心理的影響などを踏まえた議論がある。
併科措置に関する論点
児童虐待事件では、親権の喪失・停止審判、接近禁止命令、加害者更生プログラムの強制受講、児童相談所と警察の情報共有義務の強化、DV被害者への支援拡充(共犯となった親が真の加害者から逃れられる体制づくり)などが議論される。
参考リンク
・NHK NEWS WEB「目黒虐待死 父親に懲役13年判決」(2019年10月15日)
・朝日新聞デジタル「目黒虐待死、母に懲役8年判決」(2019年9月)
・毎日新聞 目黒虐待死事件一連の報道
・読売新聞 Y.F被害者事件報道
・東京新聞 目黒虐待死事件報道
・厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」
法改正動向
本件と野田市虐待死事件を契機に、2019年6月、改正児童虐待防止法・改正児童福祉法が成立(2020年4月施行)。親権者による体罰禁止の明文化、児童相談所の体制強化、警察との情報共有義務化等が盛り込まれた。2022年の児童福祉法改正でも、家庭支援・里親委託の推進などが進められている。
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