最新のトピック
なぜ退職代行が流行り、どこから違法になるのか。「弁護士でないと扱えない領域」を整理する
退職代行「モームリ」はなぜ捕まった?非弁行為とは何か——ブームの違法ライン
2026年5月30日
退職代行「モームリ」の運営会社元社長らが、退職希望者を報酬目的で弁護士に紹介したとして弁護士法違反(非弁行為)で起訴された。なぜ退職代行は流行り、どこから違法になるのか、規制のあり方を整理する。
💼 退職代行ブームと法律を考える
退職代行「モームリ」はなぜ捕まった?
非弁行為とは何か——ブームの違法ライン
最終更新:2026年5月30日
📌 1分でわかるトピック概要
退職代行「モームリ」を運営する会社の元社長らが、報酬目的で退職希望者を弁護士に紹介していたとして、弁護士法違反(非弁行為)で起訴された。退職代行はなぜここまで流行り、どこからが違法になるのか。「弁護士でないと扱えない領域」と、これからの法整備を整理する。
📑 この記事で整理すること
- 「モームリ事件」で何が起きたのか
- そもそも退職代行はなぜ流行しているのか
- 「非弁行為」とは何か(弁護士独占の意味)
- 退職代行は、どこからが違法になるのか
- 規制を強めるべきか・むしろ非弁の枠を見直すか
📰 「モームリ事件」で何が起きたのか
2026年5月、退職代行サービス「モームリ」を運営していた会社「アルバトロス」(横浜市)の元社長(37)と、元同社幹部の妻(31)の初公判が東京地裁で開かれました。罪状は弁護士法違反(非弁行為)。両被告は起訴事実を認め、法人として起訴された会社も認めています。
検察側が主張する犯行の中身は、おおまかにこうです。2023年6月から2025年2月までの間、弁護士の資格がないのに報酬目的で、退職希望者174人を弁護士2人に紹介した。さらに2024年5月から2025年3月の間には、紹介の見返りとして弁護士側から合計約146万円を「業務委託費」名目で受け取ったとされます。被告人質問で元社長は、犯行のきっかけを「同業他社の打ち合わせで『対応できない時は弁護士に紹介し、紹介料をもらっている』と聞いた」と語ったと報じられています。
📈 そもそも、なぜ退職代行は流行したのか
退職代行は、本人に代わって会社に「辞めます」と伝えるサービスです。料金は2〜5万円程度が相場とされ、SNSでの広告と口コミが追い風になり、近年、利用者が一気に増えました。背景には、いくつかの事情が重なっています。
- 「辞めます」が言いにくい職場文化。慢性的な人手不足のなかで、上司に強く引き留められる、退職届を受け取ってもらえない、という相談が絶えない。
- パワハラ・長時間労働・サービス残業といった違法な勤務実態が、退職の話し合い自体を恐ろしいものにしている。
- SNS世代の心理。直接の対峙より、第三者を挟む方法を選ぶ層が広がっている。
- 料金が比較的安く、即日対応も可能。「明日からもう行かない」を実現してくれる利便性。
つまり、退職代行は「ブームのサービス」というより「労働社会のひずみの結果」とも言えます。問題は、利便性の高さが「どこから違法か」の感覚を鈍らせやすいことです。
📜 「非弁行為」とは何か
事件で問題になったのは「非弁行為」。これは弁護士法72条に違反する行為です。
弁護士の資格がない人が、報酬目的で、他人の法律事件について交渉・代理・あっせんなどをする行為のこと。違反すると2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。法律トラブルは専門知識と倫理規範を持つ弁護士が扱うべき、という建前で、弁護士に独占的に認められた領域があります。これを業者が侵すと、相談者の不利益(不十分な対応で権利を損ねる、トラブル拡大)につながり得るため、刑罰の対象になっています。
🚦 退職代行は、どこから違法になるのか
退職代行と一括りに見えても、行為の中身で「合法/グレー/違法」がはっきり分かれます。
| 行為の中身 | 扱い |
|---|---|
| 本人の意思を会社に「伝える」だけ(連絡代行) | 合法(誰でも可。弁護士でなくてもよい) |
| 未払い残業代・退職金などを会社と交渉する | 原則違法(弁護士・労働組合のみ可) |
| 有給消化・離職票発行など条件交渉に踏み込む | 原則違法(同上) |
| 報酬目的で弁護士を依頼者にあっせんし、紹介料を得る | 違法(非弁あっせん)=今回起訴の中身 |
つまり「言うだけ」は誰でもでき、「交渉」は弁護士か労働組合の領分、「弁護士をあっせんして紹介料を取る」のは別の意味で違法、という三層構造です。労働組合が運営する退職代行サービスがしばしば「団体交渉権」を背景に交渉できるのも、この線引きから来ています。
連絡代行だけなら適法のはずでした。検察側の冒陳によれば、モームリ側は「トラブルなどで勤務先との交渉が必要な依頼」を自社で受けられず、弁護士に流す代わりに紹介料を受け取る仕組みを作っていったとされます。報酬を目的に弁護士をあっせんした時点で、弁護士法72条の「非弁あっせん」に当たる——という構図です。174人もの紹介と約146万円の受領が積み上がり、組織的・反復的とみなされやすい点も重く扱われたと考えられます。
🌐 海外との比較
「弁護士の独占」は日本に限らず多くの国で採用されていますが、その範囲は国により大きく違います。アメリカ・英国などでは、訴訟代理は弁護士独占でも、書類作成・契約相談は資格を持たないパラリーガルがかなり広く担えるとされます。ドイツでは弁護士強制主義が強い一方、労働問題は労組や事業者団体の関与が定着しています。日本は「法律事務の独占範囲」が広めで、グレーゾーンも広く残るのが特徴で、退職代行のようなサービスはこのグレーゾーンで急成長してきました。
⚖️ 量刑の相場
非弁行為(弁護士法72条違反)の法定刑は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。組織的・反復的・営利目的が認められる事案では実刑も視野に入りますが、初犯で被害弁償や反省が示されれば執行猶予となる例が多いとされます。法人としての起訴では、罰金が科される運用です。今回の事件は174人・約146万円の積み上げと「組織的継続性」が量刑にどう響くかが注目されます。
⚖️ 規制を強める(厳格な非弁取り締まり)
交渉まで踏み込んだ業者を野放しにすれば、利用者の権利が損なわれる。営利の弁護士あっせんも明確に違法であり、抜け穴を作らないため取り締まりを強めるべきだ。
🤝 弁護士独占を見直す(利用者目線)
退職という当たり前の権利を主張するために、いちいち弁護士に依頼する余裕がない人も多い。範囲を絞った認定資格や労組モデルを広げ、利用者が安く・速く救われる枠を整える方が現実的だ。
「辞めます」を伝えるだけなら誰でもできる。問題は、退職に伴うお金や条件の交渉に業者がどこまで踏み込めるか、そして弁護士をあっせんして紹介料を取る仕組みが許されるかです。モームリ事件は、ブームの裏で広がる労働社会のひずみと、弁護士独占制度のかみ合わせを、私たちに突きつけました。
💬 みんなで考えたいこと
- 退職代行業者が「交渉」まで担えるよう、限定的に認める制度は必要か
- 非弁あっせんに対する罰則(2年以下/300万円以下)は重い・軽い・適切か
- 「辞めます」を本人が安心して言える職場をどう取り戻すか
📌 この問題に関連する改正案
📚 出典・参考
- 各社報道|退職代行運営会社の元役員らの初公判(2026年5月、東京地裁)
- 弁護士法第72条(非弁行為の禁止)
- 厚生労働省・各種弁護士会|退職代行・非弁行為に関する注意喚起
💬 このトピックについてのコメント
読み込み中…
まだコメントがありません。最初のコメントを投稿してみませんか?