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460万円で人生を返せるのか。独身偽装の賠償が過去の約3倍に跳ね上がった――それでも「犯罪」ではない
独身と偽られ妊娠・出産──貞操権の慰謝料が約460万円に。それでも刑事罰はゼロでいいのか
2026年6月23日
既婚を隠して交際し、不妊治療・妊娠・出産にまで至った男性に、東京地裁が約460万円台の賠償を命じた。従来の数十万〜150万円から大きく上がった一方、独身偽装を罰する刑罰はない。被害の重さに金銭賠償は追いつくのか、刑事罰を作るべきかを考える。
📌 1分でわかるトピック概要
東京地裁は、既婚を隠して交際し妊娠・出産に至った事案で、貞操権侵害を理由に約460万円台の賠償を命じた。民事の金額は上がったが、独身偽装そのものに刑事罰はない。慰謝料で足りるのか、刑罰化すべきかを整理する。
📑 この記事で整理すること
- 約460万円台の賠償を命じた、東京地裁の最新判決(2026年6月23日)
- 従来の相場(数十万〜150万円)と比べて何が変わったのか
- 金額が上がっても「刑事罰なし・民事の賠償止まり」は変わらない
- 独身偽装を刑罰化すべきか(賛否)
- 海外ではどう扱われているか
⚖️ 約460万円台の賠償命令――独身偽装の判決が大きく動いた
既婚を隠して「独身だ」と装い、結婚を前提とする言葉で女性と交際する――いわゆる「独身偽装」。その被害をめぐる新しい判決が出ました。東京地裁(高島剛裁判官)は2026年6月23日、妻子がいながら独身を装って交際した男性に、女性の貞操権(性的自己決定権)を侵害したと認め、約460万円台(報道で約460〜470万円と幅があります)の支払いを命じました。
事案はこうです。男性は実際には妻子がいたのに、「離婚歴はあるが今は独身」と装い、結婚を前提とする言葉で交際を始めました。2022年8月に交際が始まり、双方の同意のもとで約1年にわたり不妊治療を続け、2024年7月に妊娠が判明。その約2〜3か月後に男性が既婚者だと発覚します。女性は2025年3月に出産し、その後、抑うつ状態で精神科に通院するようになりました。
性的自己決定権とは、「誰と・どういう状況で性的関係を持つかを、正しい情報のもとに自分で決める権利」のこと。貞操権はこれに近い概念で、ウソによってこの権利が侵されたとき、民事の損害賠償の対象になりえます。ただし、あくまで「お金で償う」民事の話で、刑罰の根拠にはなっていません。
判決は、女性が「既婚者とは交際できない」と明確に告げていたとされる点を重視しました。これを偽って関係を続けた以上、貞操権の侵害があると判断したのです。男性側は「婚約は成立していないし、性的自由の侵害もない」と主張しましたが、この主張は退けられました。一方で、女性の両親が起こした請求は退けられ、賠償が認められたのは本人の分のみです。
📈 従来の相場(数十万〜150万円)から約3倍に
この約460万円台という金額は、これまでの独身偽装・貞操権侵害の慰謝料からすると、かなり高い水準です。従来は数十万〜150万円程度にとどまる例が多かったからです。
これまでの相場(過去の判決)
東京地裁 2025年4月の判決では、独身と偽って交際・性交渉に応じさせた男性に110万円の賠償命令。別の東京地裁判決では、貞操権の侵害を理由に約150万円の賠償命令。妊娠・流産という重い結果が出ても、この水準にとどまっていました。
今回の判決(東京地裁 2026年6月23日)
約460万円台。従来の約3倍の水準です。妊娠・出産・精神疾患(抑うつ)という重い結果が考慮されたとみられます。被害がここまで深刻だと、賠償額も大きく押し上げられたかたちです。
| 判決 | 認められた賠償・結果 |
|---|---|
| 東京地裁 2025年4月 | 110万円(自己決定権の侵害/妊娠・流産) |
| 別の東京地裁判決 | 約150万円(貞操権の侵害/多数回の性交渉) |
| 東京地裁 2026年6月23日(今回) | 約460万円台(貞操権の侵害/不妊治療・妊娠・出産・精神疾患)。両親の請求は棄却 |
約460万円台という金額は確かに大きい。けれど、これはあくまで民事の慰謝料(賠償)です。男性に前科がつくわけでも、刑罰が科されるわけでもありません。「独身偽装そのものを罰する刑罰規定が日本にない」という根本は、金額が3倍になっても変わっていないのです。
🚧 なぜ「約460万円」でも刑事罰はゼロのままなのか
これだけ重い被害でも、なぜ刑罰にならないのか。日本の刑法は「人を欺いて性的関係を持つこと」そのものを、原則として犯罪としていないからです。独身偽装の場合、踏み込んだ行為の種類によって、合法か犯罪かがくっきり分かれます。
| 何をしたか | どうなるか(罪名・法定刑) |
|---|---|
| ① 独身と偽って交際・性交渉のみ(今回の事案) | 刑事罰なし。民事の慰謝料のみ(今回は約460万円台)。「独身偽装」を罰する刑罰規定は日本にない |
| ② 「結婚する」と信じさせ金銭をだまし取った | 詐欺罪が成立(刑法246条・10年以下の拘禁刑)。いわゆる結婚詐欺 |
| ③ 相手の署名を無断で書いて婚姻届を作った | 有印私文書偽造・同行使が成立(刑法159条・161条・3月以上5年以下の拘禁刑) |
| ④ 既婚のまま婚姻届を提出した(重ねて結婚) | 重婚罪が成立(刑法184条・2年以下の拘禁刑) |
| ⑤ 虚偽の届出で戸籍に不実の記載をさせた | 電磁的公正証書原本不実記録罪が成立(刑法157条・5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金) |
今回の事案は①にあたります。お金をだまし取ったわけでも、婚姻届に手を出したわけでもないため、②〜⑤のような犯罪は成立しません。境目は「財産(お金)に手を出したか」と「婚姻届という公文書に手を出したか」です。
「では不同意性交等罪では罰せないのか」という疑問も当然出ます。2023年7月に施行された不同意性交等罪は、暴行・脅迫や薬物など同意を難しくする8類型と「人違い」に限定されています。「独身と偽る」ケースは、線引きの曖昧さや法的安定性を理由に、意図的に対象外とされました。だから、ウソによる性的関係はこの罪でも問えないのが現状です。約460万円台という重い賠償が出てもなお、刑事の世界には入っていきません。
🤔 刑事罰を作るべきか(賛否)
賠償額が3倍に上がったいまこそ、「金銭賠償だけで足りるのか/刑事罰を新設すべきか」が改めて問われます。意見は鋭く割れます。
⚖️ 刑罰化すべき側
妊娠・出産・精神疾患という重い被害に、約460万円という賠償でも追いつかないという見方がある。一度きりの賠償では抑止力にならず、繰り返す加害者を止められない。処罰を求める署名活動(約1.6万筆規模とされる)もあり、刑事罰の新設を求める声は強い。
🗽 慎重であるべき側
恋愛のウソをどこまで罰するのかという線引きが極めて難しい。「独身と言ったか/言わなかったか」の立証も困難で、濫用や交際そのものへの萎縮を招く危険がある。金額が上がったことは、むしろ民事で柔軟に対応できている証拠だという見方もある。
賠償が約3倍になったことを、「民事がきちんと被害をすくい上げ始めた」と前向きにとらえる人もいれば、「それでも刑事罰がないのは軽すぎる」と感じる人もいます。どちらをどう重く見るかが、立法(改正案)で問われる論点です。
🌍 海外ではどう扱われている?(参考)
| 類型 | 扱い(とされる) |
|---|---|
| 🔍 重婚 | 多くの国で犯罪とされる。日本も重婚罪(刑法184条)がある |
| 🔍 ステルシング(避妊具の無断除去) | イギリスなど、不同意性交として違法と扱う国があるとされる |
| 🔍 「Yes means Yes」型の同意法制 | スウェーデンなど、明確な同意がない性交を処罰する仕組みを持つ国があるとされる。ただし「独身と偽る性交」を直接対象にしているかは別問題 |
| 🔍 「独身と偽る性交」の明文処罰 | そうした規定を広く持つ国があるかははっきりしない。広く明文処罰している国があるとは断定できない |
| 🔍 日本 | 独身偽装一般を罰する規定はない。詐欺・重婚・私文書偽造など具体的行為で対応し、それ以外は民事賠償に委ねる |
「ウソによる性的関係」をどこまで罰するかは、各国で扱いが分かれるとされます。避妊具の無断除去(ステルシング)や、明確な同意を求める「Yes means Yes」型の法制のように、同意の前提を崩す行為を性犯罪に取り込む動きはあるものの、「独身と偽る性交」を広く明文で処罰する国があるかは確かではありません。日本が刑罰化に進むなら、「どこまでのウソを、どんな状況で罰するか」を丁寧に詰める必要があります。
東京地裁は2026年6月23日、独身を偽って交際し妊娠・出産にまで至った男性に、貞操権の侵害を理由に約460万円台の賠償を命じた。従来の数十万〜150万円から約3倍に上がり、妊娠・出産・精神疾患という重い結果が反映された形だ。だが、これはあくまで民事の賠償で、独身偽装そのものを罰する刑事罰は今もない。金額が被害に追いつき始めたと見るか、刑事罰がないのは軽すぎると見るか――そして「恋愛のウソ」をどこまで罰せるのか。立法で問われる論点は、いっそう重くなっています。
💬 みんなで考えたいこと
- 約460万円という賠償は、妊娠・出産・精神疾患という被害に見合っていると感じるか
- 金額が3倍に上がっても刑事罰がないのは、軽すぎると思うか
- 「恋愛のウソ」と「処罰すべきウソ」の線は、どこで引けるか
📚 出典・参考
- 各種報道|独身偽装をめぐる貞操権侵害の民事判決(東京地裁 2026年6月23日・高島剛裁判官/約460万円台の賠償命令・両親の請求は棄却)、従来の判決(東京地裁 2025年4月・110万円/別判決・約150万円)
- 刑法246条(詐欺)/157条(電磁的公正証書原本不実記録)/159条・161条(私文書偽造・同行使)/184条(重婚)
- 不同意性交等罪(2023年7月施行)の対象8類型・人違い規定/海外の同意法制(ステルシング、Yes means Yes 型ほか・とされる)
関連する改正案
出典・参考:公開されている法令、裁判例、報道資料、各国制度の公表資料をもとに編集しています。
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