事件概要
W.M被告(通称「頂き女子Rちゃん」、判決時25歳)は、SNSなどで知り合った中高年男性に対し、生活が苦しい、家族が病気だ、借金がある、といった嘘の身の上話を巧みに織り交ぜながら、金銭を要求して詐取したとして、詐欺罪で起訴された。
報道によれば、W.M被告は単独で犯行を重ねただけでなく、自分の手口をまとめた「頂き女子マニュアル」を有料で販売することで、模倣犯を生み出した点も大きく問題視されたという。被害者は中高年男性8人、被害総額はおよそ1億5500万円とされる。
SNSでの派手な生活の発信や、若者に向けて「稼ぎ方」を売るという新しい手口は、社会に大きな反響を呼んだ。特殊詐欺の新しい類型として注目を集めた事件である。
判決
・判決日:2024年4月22日
・裁判所:名古屋地方裁判所 / 裁判長:大島隆明
・判決:懲役9年、罰金800万円
・求刑:懲役13年、罰金1200万円
・弁護側の主張:被害弁償の意思があること、初犯であることを理由に、刑の減軽を求めたと報道された。
判決理由では、「常習的かつ計画的、巧妙な手口で多額の被害を生んだ」「マニュアル販売で他人の犯行まで助長した社会的影響は極めて大きい」と厳しく指摘されたとされる。一方で、被害弁償への一定の意思や、初犯であることが情状として考慮されたと報じられた。
検察側の主張
「『頂き女子』というブランドを意図的につくり、SNSを通じて組織的・継続的に多数の被害者から金銭を詐取した。マニュアル販売で模倣犯を生んだ社会的影響は計り知れず、再犯のおそれも否定できない」と主張したとされる。
弁護側の主張
「被害弁償の意思があり、被告は深く反省している。初犯であり、若いころからの不安定な家庭環境などの事情もある」として、刑の減軽を求めたと報道された。
被害者の声
被害者は中高年男性8人、被害総額およそ1億5500万円。なかには全財産や退職金を失った被害者もいるとされる。
量刑の相場
詐欺罪(刑法第246条)に定められた刑の重さは、「10年以下の懲役」である。同じような犯行が繰り返された場合も、「常習詐欺罪」という別の罪になるわけではなく、個別の詐欺罪を併合して裁く扱いとなる。
量刑を決める際に見るのは、被害額、被害者の数、手口の巧妙さや計画性、組織犯罪か単独犯か、被害弁償ができているか、前科があるか、犯行動機など。
被害額1億円を超える詐欺事件の過去の量刑相場としては、単独犯で懲役6年から10年、組織犯罪では主犯に懲役10年以上の判例があるとされる。
本件は単独犯ながら被害額が1億円を超え、しかも「マニュアル販売で他人の犯行を誘発した」という新しい悪質要素を含んでおり、量刑判断が注目を集めた。
同種事件の判決
似た事件として、SNSを使った投資詐欺事件で、被害総額が数億円規模の主犯に懲役10年超が言い渡された判例がある。
また、ロマンス詐欺事件では、被害総額が数千万円規模で、懲役5〜8年の判例が多い傾向にあるとされる。
諸外国の事例
・アメリカ:連邦詐欺罪(wire fraud, mail fraud)の法定刑は20年以下の禁錮。被害額に応じて加重され、被害額1000万ドル超では実刑20〜25年が一般的とされる。
・イギリス:Fraud Act 2006、最高刑は10年の禁錮。判例上、被害額・被害者数・計画性で量刑が決まる。
・ドイツ:刑法第263条「詐欺罪」、最高10年の自由刑。組織的・職業的詐欺は加重規定で処罰。
・フランス:刑法第313-1条「詐欺罪」、5年以下の禁錮と37.5万ユーロの罰金、加重事由ありで10年。
日本の懲役9年は、欧州諸国の最高刑(10年)に迫る水準であり、1億円規模の単独犯詐欺としては国際的にもかなり重い部類とされる。一方、アメリカと比べるとやや軽めとも評価される。
併科措置に関する論点
経済犯罪では、刑罰に加え、犯罪収益の没収・追徴、被害弁償の義務化、民事執行による財産差し押さえ、再犯防止プログラム受講、SNS等での発信制限などが議論される。日本には犯罪被害財産等支給法という法律があり、被害回復のしくみが用意されている。
参考リンク
・中日新聞 2024年4月22日付 該当事件判決報道
・朝日新聞デジタル「頂き女子Rちゃんに懲役9年判決」(2024年4月)
・NHK NEWS WEB「『頂き女子Rちゃん』に懲役9年の判決」(2024年4月)
・文春オンライン 関連特集記事(2024年)
・現代ビジネス・東洋経済 等 関連特集記事
法改正動向
特殊詐欺の悪質化を受け、2024年以降、SNSを利用したロマンス詐欺・投資詐欺への対策強化が検討されている。犯罪収益を確実に取り上げるしくみや、被害回復制度の見直しについても議論が続いている。
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