事件概要

長野県松本市にあったペット繁殖業者で、400匹を超える犬が劣悪な環境で飼育されていたとして、元繁殖業者のM.K被告が動物愛護管理法違反などの罪に問われた。

報道によれば、施設では清掃が十分に行われず、犬が糞尿にまみれた状態で飼育され、衰弱や病気が見られても適切な措置がとられていなかったとされる。さらに、妊娠した犬に対する帝王切開をめぐり、獣医師免許のない被告が手術を行った点も問題とされた。

保護された犬を一時的に預かった施設の関係者は、当時の犬の状態について、劣悪な飼育環境だったことが一目で分かる状態だったと振り返っている。ペットを買い求める側にも、繁殖現場の実態を知る必要がある事件として注目された。

判決

・判決:懲役1年執行猶予3年罰金10万円

・求刑:懲役1年罰金10万円

・裁判所:長野地方裁判所松本支部

・罪名:動物愛護法違反(殺傷、虐待)など

検察側は、犯行には常習性があり、犬に強い苦痛やストレスを与えたとして、態様は残虐で悪質だと主張した。一方、弁護側は、劣悪な環境で飼育した虐待の罪や狂犬病予防接種を受けさせていなかった点は認めつつ、帝王切開をめぐる殺傷罪については争ったとされる。

判決は、400匹を超える犬が置かれた飼育環境の悪質さを踏まえつつ、執行猶予付きの懲役刑と罰金刑を選択したものと整理できる。

被害動物関連情報

被害にあったのは400匹を超える犬。多くは健康状態が悪く、レスキュー後も治療やケアが長期間にわたり必要だったとされる。

動物愛護団体によるレスキュー活動と、里親探しの取り組みが報じられた。

量刑の相場

動物愛護管理法第44条第1項では、「愛護動物をみだりに殺し、または傷つけた者は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金」と定められている(2019年改正で罰則強化)。

同第2項では、「みだりに給餌給水をやめ、酷使し、健康や安全を保つことが困難な場所に拘束したり、飼養密度が著しく不適切な状態で愛護動物を飼養することにより衰弱させる等の虐待を行った者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされる。

量刑を決める際に見るのは、被害動物の数、虐待の悪質さ、飼養期間の長さ、経済的動機の有無、前科の有無、反省や再発防止策、動物福祉団体への協力など。

多頭飼育崩壊事件では、被告が反省し再発防止策を示している場合、執行猶予付き判決となる例が多い傾向があるとされる。

同種事件の判決

2018年、茨城県の多頭飼育崩壊事件で、犬160匹を劣悪な環境で飼育していた繁殖業者に懲役1年6か月執行猶予4年の判決があったと報道された。

2022年、栃木県の多頭飼育崩壊事件では、犬250匹規模で、懲役1年6か月執行猶予3年・罰金併科の判決例がある。

諸外国の事例

・アメリカ:動物虐待罪は州ごとに法律が異なるが、商業的多頭飼育崩壊(puppy mill)に対しては近年厳罰化が進み、複数の州で最大5〜10年の禁錮刑が科される。

・イギリス:Animal Welfare Act 2006が2021年に改正され、最大刑が6か月から5年の禁錮に引き上げられた。

・ドイツ:動物保護法(Tierschutzgesetz)第17条「動物虐待罪」は3年以下の自由刑または罰金刑。

・フランス:2021年の改正で、動物虐待罪は最大3年の禁錮と4.5万ユーロの罰金。

・スイス:動物保護法に基づき、悪質な事件は3年以下の自由刑。

日本の動物愛護管理法は2019年改正で罰則が強化され、上限刑(懲役5年)はようやく欧米と同水準に追いついたとされる。

併科措置に関する論点

動物虐待の事件では、刑罰に加え、動物取扱業の登録取消・営業禁止、一定期間の動物飼養禁止命令、動物愛護団体への引き渡しと施設の立入検査の強化、営利目的の場合の犯罪収益没収などが論点とされる。

日本では現在、動物取扱業の登録取消や指導は行われているが、欧米諸国にあるような「裁判所による動物飼養禁止命令」の制度は、まだ導入されていない。導入の必要性についても議論が続いている。

参考リンク

・信濃毎日新聞 該当事件報道(2023年〜2024年)

・市民タイムス(松本市の地方紙) 該当事件報道

・NHK長野放送局 該当事件報道

法改正動向

2019年6月の動物愛護管理法改正で、罰則が強化された(懲役2年→5年、罰金200万円→500万円)。2021年6月からは繁殖業者などへの「数値規制」(飼養施設の広さ、従業員1人あたりの飼養頭数、繁殖年齢・回数等)が段階的に施行され、2024年6月までに全面施行された。今後は、裁判所による「動物飼養禁止命令」の制度や、犯罪収益没収の徹底などが議論されている。